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Y.B.C.Documentary
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第4回
『再建の代償』
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前説-Y.B.C.解説委員「トーリャ・マトヴェイ」
ファーストインパクトによります世界的な大地殻変動は、それまで人類社会が築き上げてきた経済、技術、文化を根こそぎ奪い去ってしまいました。
これは人類社会に対する、最も深刻で、あまりにも早すぎた処罰でした。
しかし、いま私が今ここに存在していることで証明できる事実としまして、人類は完全にこの地表から消え去ったわけではなく、復興の道に歩みだすことになりました。
しかし、今までの国家や勢力間の抗争が完全に潰えたわけではありませんでしたし、これに加えてまったく新しい世界的脅威も誕生し、ますます混迷していくのです。
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諸国を飲み込んだ水がひき、新たな大地が地表に現れると同時に各地で復興事業がはじまりました。
そんな中、平和機構は世界に先駆けて同盟組織の存続を宣言し、旧世界での体制を継続することを明らかにしました。
この平和機構の決定は共同体に大きな影響を与えました。
旧箱庭国家共同体 組織委員会理事
「共同体でも新世界においてこの組織をどうするのか盛んな議論が行われていました。大東亜が大戦によって従来のような指導力の発揮が難しくなったことにくわえて、加盟国のいくつかは復興計画もままならない有様でしたから、こんな状況でどうやって組織が存続できるのかと・・・加盟諸国の間では解散意見が多くなっていました」
しかし、平和機構の組織存続宣言が発せられた翌日、共同体も存続を宣言しました。
平和機構の台頭を恐れてのことでした。
大戦直後ということもあり、世界には安定した安全保障を求める傾向が強まっており、そうした中にあっては平和機構が急速に力を強めると思われたからです。
共同体の指導国であった大東亜は戦後世界における覇権掌握を諦めなかったのです。
ユークトバニア中央党 党幹部(北東労働党系)
「大東亜の政府は大戦で大きな被害を出し、共同体などの同盟組織を指導しつづけるほど国力に余裕はなかったにもかかわらず存続を強行に主張しました。国民の不満も頂点に達しつつあったわけです」
6月1日、大東亜で大規模な民衆の蜂起行動が起こりました。
首都である覇都にある政府系庁舎を群集が占有、軍や警察の一部もこの蜂起に参加していました。
これは、政府の首脳人が第二回国際サミットへの出席のため、国外に出ている最中のことであったため、政府の対応も後手後手にまわってしまいました。
民衆蜂起の先頭にたっていたのは、国費でラングールに留学していた学生グループでした。彼らは、大東亜政府の解体を宣言し、新しい民主主義国家を建設するとして「北東人民共和国」(現ユークトバニア連邦共和国)を名乗りました。
大東亜に不満をもっていたバール連邦共和国(現グダニスク連邦自由国)をはじめとした共同体の加盟諸国がこの民衆勢力を支持する声明を出すにいたって、大東亜の政府は国家としての業務を行えなくなり、北東人民共和国が国際的な承認を得ていくこととなったのです。
共同体における大東亜独裁体制の崩壊が決定的になるや、共同体自身も存続から解散に方針を急転することとなりました。7月15日、世界初の同盟組織であった共同体はこうして解散しました。
旧世界での大国のひとつがこうして体制転換を余儀なくされていたころ、共同体解散に伴い集団自衛力を失ったバール連邦共和国は、水火民主共和国(現水夏連邦共和国)と自主独立を互いに補完しあうため、協力的な不可侵条約の締結を行い、国際的にも注目を集めました。
共同体に加盟していた国家の中でもバールは際立って経済、軍事ともに新世界における新たな大国としての存在感を出し始めていたのです。
一方、いわゆる第三世界の発展途上国は先進国との経済格差を狭めることができずにいました。
途上国のひとつであったヘッケル国は、第三世界の中では財政が比較的安定していた国でした。
その富を不法に入手しようと画策した途上国がGT国でした。
GT国は工作員をヘッケル国の政府中枢にまで浸透させ、ヘッケル国の備蓄財産を不法な取引決定を誘発させることによってGT国に流入させたのです。
これは後に「GT国不正資金問題」と呼称される国際的事件でした。
9月30日、自国財源の異常を感知したヘッケル国政府は、すぐさま流出先のGT国に対して全額返還を求め、先進諸国も動向を注視していました。
しかしGT国はすでにヘッケル国からの資金によって高価な重要機能施設の建設を行っており、全額返済は即時には不可能でした。
GT国政府はヘッケル国に返還を友好的なそぶりで約束していましたが、一向に返還は行われず、資金流出が指摘された後も施設の建造を続けました。
この時点で、ヘッケル国からの資金流出はヘッケル国のミスではなくGT国が仕組んだものではないのかという憶測も出始めました。
こうしたGT国の言動に対して執拗に指摘を繰り返していたのは途上国のひとつであった美多民国でした。
美多民国は問題発覚早期からGT国の不正行動を疑っていました。
旧美多民国 政府関係者(現在グダニスク在住)
「はじめからおかしいと思っていました。GT国の態度にもどこか違和感がありました。私たちがGT国の問題、いわば我々からすれば直接的に関係のない問題に執拗にまで踏み入ったのは、これが途上国間の紛争の種になる可能性があると考えたからです。途上国での紛争は貧しい状況を加速するだけのものです」
GT国不正資金問題と同時期の10月3日、革命間もない北東人民共和国は新たな国際秩序の形成を企図し、平和機構との協議も行ったうえで「箱庭解放条約機構」(以下METO)の設立を宣言しました。
METOには水火民主共和国から、社会主義体制の強化に伴い国号を変更していた水夏社会主義連邦共和国(現水夏連邦共和国)も参加しました。
水夏連邦共和国 当時METO方面担当武官
「METOのやろうとしていたことは非常に大きなことでした。これまでにない軍事戦略性をもって国際秩序の形成を図ろうとしていたんです。純粋な国際戦略のための軍事機構でした。我が偉大なる連邦もこれに参画し、世界指導勢力の一端に加わろうと考えたのです」
ユークトバニア中央党 党幹部(北東労働党系)
「北東人民共和国は社会主義国でしたがそれほどイデオロギーを重視していたわけでもなく、またそうした時代でもありませんでした。METOは安全保障のみならず世界秩序の形成をはかるためのイデオロギーを無視した自由な先制的軍事戦略同盟であり、その権限は加盟国に平等にありました。GT国の不正資金問題が取りざたされていた最中でしたが、当時はそこまで深刻なものだとは捉えていませんでしたから、METOの結成にはなんの影響もありませんでした」
しかし、結果的にMETOはこのGT国不正資金問題に端を発する国際的動乱において大きな役割を担うことになるのです。
数日の後、いくつかの国からの批判もあり、GT国はヘッケル国に対して資金の払い戻しを実施しつつありました。
しかしそれはひどく小額の資金を分割送金するという時間のかかる方法でした。
GT国は高額施設の建設を続けながら、国際的な非難を避けるため、送金するそぶりを示すことしかしなかったのです。
10月8日、しびれをきらした美多民国政府は、ヘッケル国にかわってGT国への爆撃を決定します。
美多民国の軍隊が、GT国の不正資金で建設された施設等に攻撃を行い、第一波攻撃だけで相当数の施設が破壊されました。
攻撃をうけたGT国の国家代表「ルソー」は、すかさず国際会議場の席上で世界に向けて声明を発表しました。
ルソーの答弁(記録フィルムより)
「美多民国からの布告文が送られてきていないし、見た覚えもない。私は美多民国に金を払うつもりもない。なぜならば美多民国はルールにのっとっていないからだ」
ルソーは美多民国から宣戦布告がないままGT国が攻撃をうけたと主張したのです。
証拠記録はないものの、現在までの歴史調査によって、美多民国はGT国に対して正しく宣戦布告を行っていたとする説が有力となっています。
ルソーは美多民国からの布告文章を保管せず焼却し、布告がなかったものとして美多民国が国際法違反を行っているかのように主張したのです。
これにより、美多民国はGT国に対する攻撃を停止せざるをえなくなりました。
旧美多民国 政府関係者
「まったく馬鹿げた話でした。GT国への爆撃は決定のずいぶん前から時間の問題でしたし、国際世論もそれを承認していたのです。問題はどこの国がやるのか・・ということだけでした。なぜ不正に奇襲攻撃する必要があったでしょうか。我が国がやらなければ、他の国が同じ憂き目にあっただけのことなのです」
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おわりに-Y.B.C.解説委員「トーリャ・マトヴェイ」
大戦後、大国での政変や新たな軍事同盟の結成が相次ぎ、新しい枠組みを形成する過程に登場したルソーという独裁者の存在は、歴史を振り返ってみればわかるように、後に大きな国際的動乱へと続く根源としてありつづけることになります。ヘッケル国と美多民国は長きルソー動乱時代の最初の被害国であるといっても過言ではないでしょう。
次回のY.B.C.ドキュメンタリー第5回『そして滅びの旋律へ』では、ルソー動乱がいかにして本格化していき、歴史上、最初で最後の国際共同軍事作戦ともいえる「滅びの旋律作戦」の発動に至るのか、その歴史に焦点をあててお送りいたします。
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Y.B.C.ドキュメンタリー
第4回
『再建の代償』
製作-Yuktobanian Broadcasting Corporation
解説-トーリャ・マトヴェイ
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Yuktobanian Broadcasting Corporation(Y.B.C.)は、
ユークトバニア連邦共和国に本社をもつ民間の国際報道誌です。
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